10月の街が騒がしくなる。
どこを見てもオレンジと黒のディスプレイ。
SNSを開けば、カボチャの絵文字と「ハロウィンキャンペーン開催中！」の文字が飛び交っている。

その画面を見つめながら、私はため息をついた。
心のどこかで、「今年もこの季節が来たか」と思った。

去年の今ごろ。
私も、みんなと同じように“流れに乗ろう”とした。
「ハロウィン限定割引」「先着5名様」「フォローでクーポン」——
そんな投稿を何本も作った。

だけど、結果は惨敗だった。

投稿はたくさん見られた。
いいねもついた。
でも、予約は一件も入らなかった。

数字の上では「見られている」のに、
現実は「誰にも選ばれていない」。

その矛盾に、胸が締めつけられた。

その夜、パソコンの光だけが部屋を照らしていた。
「これだけ頑張ってるのに、なんで…？」
その問いを繰り返すうちに、心の中でひとつの声がした。

「あなたは、“盛り上げる人”じゃなくて、“寄り添う人”なんじゃない？」

その瞬間、何かがストンと腑に落ちた。

私は、派手に人を惹きつけるタイプじゃない。
どちらかといえば、静かに人の話を聞くほうが得意だ。
だけどSNSの中では、それが“弱さ”に見えてしまう気がしていた。

だから無理をして、盛り上がりの波に乗ろうとしていたのかもしれない。

翌朝、私は投稿を作り直した。
「季節の変わり目、心と体を少し休めませんか？」

たったそれだけのシンプルな文章だった。
写真はカボチャでもなく、派手なポスターでもなく、
秋の陽だまりの中に置かれた白いカップの写真。

その投稿に、1件のコメントがついた。

「先生の投稿を読むと、ホッとします。ありがとう。」

涙が出た。
たった一言なのに、心の奥に響いた。

あの派手な投稿には、どれだけ頑張っても届かなかった温度があった。
このコメントが、“信頼の始まり”だった。

その後、私は少しずつ方向を変えた。
「キャンペーンを売る発信」から、「安心を届ける発信」へ。

それは、一見地味で、即効性のない道のりだった。
でも、驚くほど静かに変化が起き始めた。

あるお客様が、久しぶりに予約を入れてくれた。
「最近、投稿が落ち着いてて好きです」と言ってくれた。
別のお客様は、友人を紹介してくれた。

そして気づいた。

人は、“盛り上がり”では動かない。
“共感”で動くんだ。

ハロウィンのようなイベントは、確かに華やかで、わかりやすい。
でも、心の奥で誰もが気づいている。
「無理して盛り上がってる人」ほど、疲れていることを。

発信にも同じことが言える。
“賑やかさ”を演じすぎると、信頼が摩耗していく。

なぜなら、共感のエネルギーは“静けさ”の中でしか生まれないから。

サロン経営も、人間関係も同じだ。
信頼とは、“安心して委ねられる空気”のこと。
それは、派手な言葉よりも、心の静けさの中で育つ。

「私はハロウィンが苦手です」

そう言える人ほど、実はお客様の信頼を得ていく。
なぜなら、彼女たちは“空気”ではなく、“人の心”を見ているから。

「この人、何か違う」
「この人の言葉、心地いい」
そう感じた瞬間に、人は“予約ボタン”を押す。

あなたが仮装しなくても、限定メニューを出さなくても、
お客様はあなたを見つける。

なぜなら、信頼の香りは、派手な色よりもずっと遠くまで届くから。

ハロウィンの夜、私はキャンドルをひとつ灯した。
SNSの通知は少なかったけれど、サロンの予約は埋まっていた。

その光を見つめながら思った。
あぁ、私は“静かに信頼を積み上げる人”でいいんだ、と。

誰よりも派手に光る必要なんてない。
心に火を灯し続けることができれば、それでいい。

ハロウィンが終わっても、
お客様の心の中で光り続けるのは、
“あなたの言葉の温度”なのだから。