誰もが盛り上がる夜に、
私は投稿ボタンを押せなかった。

街はオレンジ色に染まり、
タイムラインには笑顔とカボチャがあふれている。

けれど私の心は、どこか灰色だった。

「この時期に何もしないなんて、もったいないですよ」
そんな声が頭の中で響く。
でも、どれだけ考えても“出したい言葉”が見つからなかった。

売り込みのような投稿はしたくない。
でも、何も発信しないのも怖い。

その狭間で、私は画面を閉じた。

夜が更け、ふと窓の外を見ると、
街の飾りつけが静かに揺れていた。

派手に光るランタンよりも、
隣の家の小さな灯りのほうが、なぜか心に残った。

その瞬間、気づいた。
“映える”より、“残る”言葉を書きたいのだと。

私はスマホを開き、3行だけ書いた。

「ハロウィンの飾りを片づけるとき、
少しだけ寂しくなる。
それでもまた、誰かを想える自分でいたい。」

送信を押す指が、少し震えた。
でも、妙に心は落ち着いていた。

翌朝、通知が鳴った。

「なんだか泣けました。」
「今の私にぴったりの言葉でした。」

いいねの数は少なかった。
でも、メッセージはいつもより多かった。
そして、一件の予約が入っていた。

あの夜、私は気づいた。

人は“情報”では動かない。
“共感”で動く。

ハロウィンが苦手な人も、
イベントを楽しむ人も、
心のどこかでは「理解されたい」と願っている。

静かな投稿には、強さがある。

叫ばない言葉ほど、
深く届くことがある。

「あなたのこと、わかるよ」
──それは、どんな広告よりも強いコピーになる。

派手さより、誠実さを。
演出より、余白を。

信頼は、
“沈黙のあとの一文”から生まれる。

ハロウィンの夜に無理して笑わなくてもいい。
あなたの静けさは、きっと誰かの安心になる。

だから、今夜も私は書く。

「大丈夫。ちゃんと届いてるよ。」