10月の朝、いつも通りを投稿したら、いいねが3倍になった。
10月の朝。
目を開けた瞬間、部屋の空気がひんやりしていた。
焦りのような冷たさが、胸の奥に沈んでいた。
カレンダーを見る。空欄の多い予約表。
「またか…」とつぶやく。
コーヒーメーカーのボタンを押した指が、少し震えた。
SNSを開くと、色とりどりの投稿が流れてきた。
「秋限定キャンペーン?」「ハロウィン割?」
──みんなが勢いよく走り出している。
自分だけが置いていかれているような感覚。
投稿しなきゃ、って思っても、言葉が出ない。
指が止まる。
「もう今日は、やめようかな。」
そう思ったそのとき、湯気がふわりと頬に触れた。
その温かさに、少しだけ救われた気がした。
マグカップを両手で包みながら、
“いつも通り”を取り戻すように、スマホを開いた。
「10月の朝。
コーヒーの香りが、少しだけ濃い気がする。
季節が変わるたび、私も少しずつ変われたらいいな。」
投稿を終えて、スマホを伏せた。
その瞬間、なぜか少し泣きそうになった。
数時間後、通知が鳴り始めた。
「なんか、すごく共感しました」
「この言葉、今の私にぴったりです」
コメントが一つ、また一つ。
ふと気づくと、いいねの数が3倍になっていた。
それは数字の問題じゃなかった。
“誰かが、ちゃんと見てくれている”
──それを感じた瞬間、胸の奥の冷たさが溶けていった。
今になって思う。
反応がなくなると、人は“もっと派手に”しようとする。
でも、それは逆効果なんだ。
人は、完璧なものより“息づかい”に反応する。
あの日、私は“ちゃんと見せよう”をやめた。
“ちゃんと感じたこと”だけを言葉にした。
その小さな選択が、信頼を生んだのだと思う。
今、投稿に迷っている人へ。
何を出すかじゃなく、“どんな気持ちで”出すかで変わる。
誰かに響く言葉は、いつもあなたの“心の温度”の中にある。
だから今日も、焦らなくていい。
いつも通りの朝にある光を、ただ切り取って。
それが、あなたのファンを生む最初の一文になる。