【実録】高額なシステムを導入したのに、ログイン画面の前で「石」になってしまった院長の末路。
クレジットカードの決済完了メールが届いた時。 あなたは確かに「救われた」と思ったはずだ。
月額数万円。あるいは一括で数十万円。 震える指で決済ボタンを押したのは、そのツールの機能に惚れ込んだからではない。
「これで、もう集客に怯えなくて済む」 「これで、私が寝込んでいても予約が入るようになる」
その**「安心」**を買ったつもりだったからだ。
深夜1時。 高揚した気分で、新しいパソコンを開く。 送られてきたIDとパスワードを入力し、ログインボタンを押す。
さあ、私の新しい右腕よ、動き出したまえ。 私が施術に集中している間も、家族と食事をしている間も。 私の代わりに働き、患者さんを集め、売上を作ってくれる魔法のシステムよ。
しかし。
画面に表示されたのは、あなたの期待した「救い」ではなかった。 そこにあったのは、広大で、冷酷なほどの「白」だった。
『ようこそ。まずは初期設定を始めましょう』
無機質な文字の下に、空っぽの入力欄が並んでいる。
「ステップメールのシナリオを入力してください」 「タグの条件分岐を設定してください」 「API連携キーを入力してください」
カーソルが、**チカ、チカ、**と点滅している。 まるで、あなたの沈黙を嘲笑うかのように。
あなたの指が止まる。 心拍数が上がる。 さっきまでの高揚感は一瞬で消え去り、代わりに冷たい汗が背中を伝う。
「……何を書けばいいんだ?」
あなたは治療のプロだ。 骨の歪みを見抜く目は持っていても、 「来店3日後の患者に送るべき、開封率の高い件名」なんて知らない。 「離脱を防ぐための最適なステップ数」なんて考えたこともない。
でも、この箱(システム)は、あなたが命令しない限り、指一本動かそうとしない。
「ご自由に設定してください」
IT企業が好んで使うこの言葉は、あなたにとって「自由」ではない。 **「丸投げ」**だ。 「私が大工道具を用意してやったんだから、あとはお前が勝手に家を建てろ」と言われているのと同じだ。
あなたは画面の前で、完全にフリーズする。 これが、あなたが**「石」**になる瞬間だ。
「……今日は疲れている。週末に、じっくり考えよう」
そう言い訳をして、あなたはそっとブラウザを閉じる。 見て見ぬふりをする。 高額な利用料が毎月引き落されていることさえ、脳の隅に追いやる。
どうだろう。 今のあなたのパソコンの中に、そんな「開かずのタブ」はないだろうか?
そして、悲劇は忘れた頃にやってくる。
半年後のある朝。 あなたはベッドから起き上がれなくなる。 激しいめまいと吐き気。 身体が悲鳴を上げ、強制終了したのだ。
薄れゆく意識の中で、あなたは思う。 「大丈夫だ……あのシステムがある」 「毎月高い金を払っているんだ。きっと何とかしてくれているはずだ」
震える手でスマホを掴み、半年ぶりに管理画面を開く。
そこにあったのは。
半年前と同じ、 『ようこそ。まずは初期設定を始めましょう』 という文字と、
『予約件数:0件』
という残酷な数字だけだった。
あなたが「石」になっていた半年間、システムもまた「石」のままだったのだ。 当然だ。魂を吹き込んでいない人形が、勝手に動くはずがない。
あなたの院は沈黙したままだ。 予約の電話は鳴らず、既存患者へのフォローも行われず、ただ静かに、あなたの貯金残高だけが減っていく。
救急車のサイレンを聞きながら、あなたは天井を見つめて絶望する。 「なぜ、あんなものを買ってしまったんだ」と。
でも、聞いてほしい。 あなたは悪くない。
あなたのITリテラシーが低いからでも、あなたの努力が足りないからでもない。 あなたは治療のプロであり、システムエンジニアではないのだから、できなくて当たり前なのだ。
間違いはたった一つ。 「素材(ツール)」を買ってしまったことだ。
レストランのシェフが欲しいのは「最高級の小麦粉」ではない。「焼き上がったパン」だ。 小麦粉を渡されて「あとは自由に焼いてくれ」と言われても、パン焼き機の設定なんて分からない。
それなのに、世の中の多くのサービスは、 「機能」だけを売りつけ、「使いこなす責任」をあなたに押し付ける。 「カスタマイズの自由度が高い」という甘い言葉で、あなたを「終わりのない設定地獄」へと誘い込む。
それは、あまりにも不親切だ。
あなたが本当に必要だったのは、 **「ログインした瞬間に、すでに完成しているシステム」**だったはずだ。
挨拶の文面も、予約の取り方も、追客のタイミングも。 すべてがプロの手によって組み込まれ、 「あとはスイッチをONにするだけ」の状態になった完成品。
それさえあれば、あなたはあの夜、石にならずに済んだ。
「保存」ボタンを一度押すだけで、その日からシステムは動き出し、 あなたが倒れた今日のこの日も、
ピロン♪
「先生、大丈夫ですか?予約は変更しておきますね」
と、あなたのスマホに通知を届け、あなたの代わりに患者さんに寄り添ってくれていたはずなのだ。
カーソルが点滅している。 今、あなたの目の前の画面はどうだろうか。
もし、そこに「空白」があるのなら。 もし、「何を入力すればいいか分からない」と悩み、先送りにしているタスクが一つでもあるのなら。
それは、ただの「未設定」ではない。 あなたの未来の収入を「ゼロ」にするための、時限爆弾のスイッチだと思ってほしい。
完璧主義なあなたほど、この罠にはまる。 「ちゃんと設定してから」 「いい文章が思いついたら」
そうやって石になっている間に、あなたの身体の限界は刻一刻と迫っている。
もう、自分を責めなくていい。 真っ白なキャンバスを前に、筆を持ったまま震える必要はない。
必要なのは、描く努力ではない。 すでに描かれた名画を、ただ壁に飾る勇気だ。
そのパソコンを閉じる前に、一度だけ想像してみてほしい。
明日、もしあなたの目が覚めなかったとしても、 勝手に働き続け、勝手に患者さんを幸せにし、勝手にあなたの口座にお金を運び続ける。
そんな「設定済みの分身」が、すでにそこにいる世界を。