まだ「次の予約」を書いてるの? 9割の治療家が毎日ドブに捨てている“最強の資産”について
最後の患者さんを見送り、院のシャッターを下ろす音が響く。 「お疲れ様でした」とスタッフを見送り、静まり返った待合室に戻る。 ひとり、レジの締め作業をするこの瞬間。
ふと、怖くなることはないだろうか。
今日の売上はある。今月の支払いもなんとかなる。 でも、レジを閉じる自分の「右手」を見つめたとき、背筋が凍るような感覚に襲われる。
「もし明日、この手が動かなくなったら?」
腱鞘炎かもしれない。ぎっくり腰かもしれない。 あるいは、予期せぬ事故や病気かもしれない。
理由はなんだっていい。 確実なのは、私が施術ベッドの横に立てなくなった瞬間、 このレジの中身は「ゼロ」になるということだ。
私たちは、それを「職人の誇り」という言葉でコーティングして誤魔化している。 「私の手技を求めて患者さんが来る」 それは素晴らしいことだ。けれど、経営者としての視点で見れば、これほど脆(もろ)い城はない。
自分という人間が、常に動き続け、エネルギーを燃やし続けなければ明かりが消える。 止まることが許されない発電機。 それが、私たちの院の正体だ。
だから、私たちは必死になる。 その発電機を止めないために、必死で「次の予約」を埋めようとする。
今、あなたの院のカウンターに目をやってみてほしい。 そこに何が置いてあるだろうか?
「次回の予約はお早めに」 「お得な回数券キャンペーン」 「お友達紹介で500円オフ」
色鮮やかなPOPが、所狭しと並んでいるはずだ。 かつての私もそうだった。これを貼ることが、経営努力だと信じて疑わなかった。 少しでも予約枠を埋めることが、唯一の生存ルートだと思っていた。
でも、はっきり言おう。 そのPOPこそが、あなたを「終わりのない労働」に縛り付けている鎖だ。
あなたは毎日、目の前にある「最強の資産」を、自らの手でドブに捨ててしまっている。
それに気づいたのは、私が高熱で倒れ、一週間院を閉めたときだった。 予約の電話は鳴らない。 キャンセル対応に追われるスタッフの申し訳なさそうな声だけが聞こえる。
布団の中で天井を見上げながら、私は絶望した。 「あれだけ毎日、汗水垂らして信頼を積み上げてきたのに、俺が現場にいなければ何も残らないのか」
数百人、数千人の患者さんの体を治してきた。 彼らは私を信頼し、感謝してくれていたはずだ。 なのに、私が施術できなくなった途端、その繋がりはプツリと切れていた。
なぜか? 私が彼らに手渡していたのは、「その場限りの施術」だけだったからだ。 彼らが帰るとき、私は「お大事に」と背中を見送るだけで、 「院の外でも繋がり続ける仕組み」を持たせていなかったからだ。
患者さんが財布からお金を出して支払いを済ませる。 その時、彼らは「現金」以上の価値あるものを持っている。 それは「あなたへの信頼」だ。
まだ温かい、その高純度な信頼を、そのまま出口から逃してしまっている。
「次回の予約」を促すPOPは、その信頼を使って「私の労働」をもう一度買わせようとする行為だ。 それは資産作りではない。ただの「延命措置」だ。
本来、あそこに置くべきは「予約のお願い」ではない。 「私が倒れても、あなたを守り続けるための切符」だ。
もし、あのPOPがこう変わったらどうだろう。
「痛みがぶり返すのが怖いあなたへ。 私が寝ている間も、あなたの腰を守る『緊急セルフケア動画』を、 今すぐスマホに入れて帰ってください」
患者さんは、あなたの施術に感動している。 だからこそ、家に帰ってから一人になるのが不安なのだ。 その不安に寄り添い、「これを持ち帰ってください」と、QRコードという名の「お守り」を差し出す。
彼らがそれを読み込んだ瞬間、魔法がかかる。
患者さんのスマホの中に、あなたの「分身」が入り込む。 あなたが休んでいても、寝ていても、その動画の中であなたは患者さんに語りかけ、ケアをし続ける。
結果として、何が起きるか。 その瞬間に「リスト」という名の資産が手元に残る。
LINEでもメルマガでもいい。繋がってさえいれば、あなたはベッドの上からでも彼らに価値を届けられる。 「新しい講座を作りました」 「自宅でできる健康法を教えます」
そこには、あなたの肉体を酷使しなくても、 患者さんに感謝されながら生まれる「第二の売上」が立ち上がる。
かつて私が「ただの紙切れ」だと思っていたPOPは、 アナログな「労働」を、デジタルの「資産」に変換する、唯一の変換装置だったのだ。
難しいITツールなんていらない。 必要なのは、待合室にある「紙」を一枚、書き換えることだけ。
今、あなたの院にあるそのPOPを、もう一度見つめてほしい。 それは、患者さんに「何かをねだる(Take)」ものになっていないだろうか。 それとも、患者さんに「一生の安心を手渡す(Give)」ものになっているだろうか。
患者さんが院を出て行く後ろ姿を見て、 「ああ、また一人、大切な資産が流れていった」 そう感じるようになったら、あなたはもう変わり始めている。
明日、カウンターに置くべきは、華美なデザインの売り込みチラシではない。 もっと不格好でもいい。 あなたの「想い」と「分身」が詰まった、一枚の提案だ。
それを置いたその日から、院内の音が変わるはずだ。
予約の電話のベルじゃない。 あなたが施術している最中に、ポケットの中で小さく鳴る「ピコン」という通知音。
その音こそが、あなたが「労働者」を卒業し、 本当の意味で患者さんと共に生きる「治療家」へと生まれ変わった合図になる。