なぜ、患者さんは忙しい中でスマホを取り出し、わざわざあなたのLINEに登録しなければならないのですか? その答えが言えないなら、今すぐそのPOPを捨ててください

2026/01/22
【思考停止の象徴】 埃をかぶった「お願いPOP」

深夜1時過ぎ。 最後のカルテを書き終え、重たいシャッターをガラガラと下ろす。

静まり返った院内で、ひとり、レジの締め作業をするこの時間が、私は昔から苦手だった。

今日の売上は悪くない。 今月の支払いも、まあなんとかなる。

数字を見れば安心できるはずなのに。 ふと、施術で酷使して熱を持った自分の右手首をさすった瞬間、 背筋が凍るような冷たい感覚に襲われることがある。

「もし明日、この手が動かなくなったら?」

腱鞘炎が悪化するかもしれない。 ぎっくり腰で動けなくなるかもしれない。 あるいは、予期せぬ病気で入院することになるかもしれない。

理由はなんだっていい。 確実なのは、私がこの施術ベッドの横に立てなくなった瞬間、 このレジの中身は「ゼロ」になるということだ。

【思考停止の象徴】 埃をかぶった「お願いPOP」

私たちは、それを「職人の誇り」という美しい言葉でコーティングして、見て見ぬふりをしている。 「私の手技を求めて患者さんが来る」 それは素晴らしいことだ。治療家として、これ以上の喜びはない。

けれど、経営者としての視点で見れば、これほど脆(もろ)く、危ういビジネスモデルはない。

自分という人間が、常に動き続け、エネルギーを燃やし続けなければ明かりが消える。 止まることが許されない発電機。 それが、私たちの院の正体だ。

だからこそ、私たちは将来の不安を少しでも和らげようと、何かにすがりたくなる。 「これからはデジタルの時代だ」 「LINEで顧客リストを作らなければ」 どこかのセミナーで聞いたそんな言葉を頼りに、見よう見まねで始めるのだ。

今、あなたの院の受付カウンターに目をやってみてほしい。 一番目立つところに、それが置かれていないだろうか。

「当院の公式LINE始めました。登録お願いします」

そう書かれた、手作りのPOPとQRコード。 もしかしたら、少し埃をかぶっているかもしれない。 最後に誰かがそのコードを読み取ってくれたのは、いつだっただろうか。

はっきり言おう。 かつての私もそうだったから、痛いほど分かる。 だが、そのPOPは、ただの紙切れではない。

それは、あなたの「思考停止」を象徴する記念碑であり、 あなたの老後を「収入ゼロ」の地獄へと誘う、静かなる時限爆弾だ。

あなたは毎日、そのPOPの前を通り過ぎる患者さんの背中を見ながら、心の中で祈っている。 「誰か登録してくれないかな」 「これでリストが集まれば、何かあった時も安心なはずだ」

でも、現実はどうだ。 患者さんは、施術が終われば一刻も早く帰りたい。次の予定があるし、夕食の買い物もしなければならない。 靴を履きながら、あなたのPOPを一瞥もしないことの方が多いだろう。

【再生の提案】 差し出された「光るお守り」

なぜ、誰も登録しないのか? その理由を、患者さんの立場になって本気で考えたことがあるだろうか。

答えは、残酷なほどシンプルだ。 あなたが、患者さんに「損」をさせているからだ。

想像してみてほしい。 忙しい現代人にとって、スマホを取り出し、カメラを起動し、QRコードを読み込み、登録ボタンを押すという行為は、決して小さくない「手間(コスト)」だ。

そのコストを支払ってまで手に入れたい「価値(ベネフィット)」が、あなたのPOPには提示されていない。

ただ、「登録お願いします」という、あなたの一方的な都合(Take)だけが書かれている。 厳しい言い方になるが、これは見ず知らずの人に「あなたの時間を少し私にください。対価は払いませんが」と言っているのと同じくらい、傲慢な態度なのだ。

患者さんは敏感だ。 言葉にはしなくても、そのPOPから滲み出る「自分のことしか考えていない空気」を、無意識に感じ取っている。 「ああ、また何か売り込まれるのかな」 そう思わせてしまった時点で、もう信頼の貯金は目減りしている。

そして、この「思考停止」こそが、あなたが最も恐れている事態を引き寄せる。

もし、明日あなたが本当に倒れたら。 その時、あなたの手元にある、義理で登録してくれた数少ないLINEリストは、あなたを助けてくれるだろうか?

ベッドの上から、「すみません、しばらく休診します」と一斉送信する。 返ってくるのは、「お大事に」というスタンプが数件。それで終わりだ。 彼らは、あなたの「施術」が受けられないなら、他の治療院を探すだけだ。

当然だろう。 あなたは彼らに、「施術以外の価値」を何一つ提供してこなかったのだから。

ただ「登録して」とお願いだけして、その先にどんな未来があるのか、どんな安心が得られるのかを、一切示してこなかったのだから。

あのカウンターの隅で、空気のように存在感を失っているPOP。 あれは、「あなたが動けなくなった時、患者さんとの縁が完全に切れるかどうか」を決定づける、運命の分かれ道そのものだ。

では、どうすればいいのか? 答えは、あなたが普段、患者さんにしていることの中にある。

【未来の絆】 スマホの中の「先生」と、安心した笑顔

本来、あそこに置くべきは、デジタル賽銭箱のような「お願い」ではない。 患者さんが、忙しい足を止めてでも、喜んでスマホを取り出したくなるような「提案(Give)」であるはずだ。

例えば、こんな言葉が書かれていたらどうだろう。

「痛みがぶり返すのが怖いあなたへ。 私が寝ている間も、あなたの腰を守り続ける『お守り(セルフケア動画)』を、 今すぐスマホに入れて帰ってください」

もし、そんなオファーが書かれていたら。 患者さんは、「え、先生、そんなことまでしてくれるの?」と驚き、感謝しながらQRコードを読み込むだろう。

その瞬間、彼らのスマホの中に、あなたの「分身」が入り込む。

あなたが休んでいても、入院していても、その動画の中であなたは患者さんに語りかけ、ケアをし続ける。 そうやって築かれた「感謝の繋がり(リスト)」だけが、あなたが肉体を酷使できなくなった後も、あなたと家族の生活を支える命綱になるのだ。

もう一度、静まり返った院内で、あのPOPを見つめ直してほしい。

そこに書かれている言葉は、誰のためのものだろうか。 あなたの不安を埋めるための「お願い(Take)」か。 それとも、患者さんの不安を取り除くための「愛(Give)」か。

その紙切れ一枚に、あなたの治療家としての姿勢と、未来のすべてが透けて見えている。

もし、冒頭の問いかけに、胸を張って答えられないのなら。 そのPOPは、今すぐ破り捨てた方がいい。 何も置かない方が、まだ患者さんに対して誠実かもしれないのだから。

だが、もしあなたが「患者さんを守り抜きたい」と本気で願うなら。 明日、そのPOPを書き換えることから、あなたの新しい治療家人生が始まるはずだ。

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