「チャリン(売上)」は嬉しいが、「ピコン(登録通知)」はもっと嬉しい。なぜなら前者は「今日の食い扶持」であり、後者は「将来の年金」だからです。その決定的な違いに気づいていますか?

2026/01/28
【静寂の病床】 途絶えた「チャリン」と、暗いスマホ

一日の施術を終え、最後の患者さんを見送る。 レジを開け、今日の売上を計算する瞬間。 ジャラジャラという硬貨の音と、カサカサという紙幣の感触。

「チャリン」。

その音を聞くと、張り詰めていた神経が、少しだけ緩む。 今日も一日、生き延びた。スタッフに給料を払える。家賃が払える。家族を養える。 その安堵感は、何物にも代えがたい。

私たちは、この「チャリン」という音のために、毎日必死で腕を磨き、汗を流している。 患者さんの「楽になったよ」という笑顔と、その対価としての「チャリン」。 それが私たちの誇りであり、存在意義そのものだと思っていた。

……あの日、私が高熱で倒れ、天井のシミを見つめ続けることになるまでは。

体が動かない。声が出ない。 当然、予約は全てキャンセル。レジが開くことはない。 「チャリン」という音は、私がベッドに倒れ込んだ瞬間、プツリと途絶えた。

【暗闇の希望】 枕元で光る「ピコン!」の通知

静まり返った部屋で、聞こえるのは自分の荒い呼吸音と、加湿器の音だけ。 その時、枕元のスマホが鳴った。

「ピコン!」

LINEの通知音だ。 熱に浮かされた頭で、ぼんやりと画面を見る。 それは、予約のキャンセル連絡でも、スタッフからの緊急連絡でもなかった。

『新規のお友だち追加がありました』

……え?

私は混乱した。 私は今、高熱で唸っている。何の施術もしていない。一ミリも動いていない。 それなのに、誰かが私の院に興味を持ち、私の(正確には、私が元気な時に設置した)仕組みと繋がってくれたのだ。

その無機質な「ピコン」という電子音が、その時の私には、どんな美しい音楽よりも感動的に響いた。

なぜなら、それは私が初めて体験した、「私が働いていないのに、価値が生まれた瞬間」だったからだ。

今なら、はっきりとわかる。 あの「チャリン」という音は、確かに尊い。 だが、それは残酷なまでに「労働の対価」でしかない。 私たちがペダルを漕ぎ続けなければ鳴らない、自転車操業の音だ。 止まれば、倒れる。それが「チャリン」の宿命だ。

対して、あの「ピコン」という音。 あれは、ただの通知音ではない。 あれは、未来の私たちが受け取る「資産」が、一つ積み上がった音なのだ。

それは、将来の「年金」であり、来月の家族旅行中に勝手に入ってくる「お小遣い」であり、嵐の日に休診しても私たちを支えてくれる「命綱」の音なのだ。

【分身の働き】 忙しい施術と、ひっそり鳴るスマホ

その決定的な違いを、肌感覚で理解できた瞬間があった。

ある忙しい土曜日の午後。 私は汗だくになって、大柄な男性患者さんの腰を施術していた。 次から次へと患者さんが訪れ、待合室は満席。息つく暇もない。

その時、受付の奥に置いてあった私のスマホが、雑踏に紛れて小さく鳴った。 「ピコン!」

私は施術の手を止めず、マスクの下で、ニヤリと笑った。 心の中で、小さくガッツポーズをした。

「よし、働いてるな、俺の分身」

今、私がこの患者さんの腰に全神経を集中させている間に、待合室にいた別の誰かが、カウンターのPOPを見て、LINEに登録してくれたのだ。

私の体が一つしかなくても。私が今、他の誰かにかかりきりでも。 デジタル上の私の「分身」が、文句ひとつ言わず、完璧なタイミングで営業して、未来の予約見込み客を捕まえてくれた。 その痛快な事実は、忙しさの中で擦り切れそうになる私の自尊心を、強烈に満たしてくれた。

「あぁ、俺はもう、一人で戦わなくてもいいんだ」

そして、さらに感動的な瞬間が訪れる。 後日、その登録してくれた患者さんが来院したときのことだ。 施術中に、彼女は嬉しそうにこう言った。

「先生、LINEで送ってくれた動画、見ましたよ! お風呂上がりにあのストレッチやったら、朝すごく腰が楽で。びっくりしました」

私は、マスクの下で泣きそうになるのを必死でこらえた。

これが、信頼の可視化だ。 私が寝ている間に自動送信された動画が、彼女の自宅という密室に入り込み、彼女の痛みを和らげたのだ。 私は指一本触れていないのに、価値を提供できた。

これこそが、私たちが夢見ていた「労働からの解放」の、最初の確かな「芽」ではないだろうか。

【未来への種蒔き】 閉じたPCと、確かな「仕組み」

先生。 あなたは、いつまで「チャリン」だけを追いかけ続けるつもりだろうか。 いつまで、止まることが許されないランナーとして、走り続けるつもりだろうか。

技術を磨くことは素晴らしい。それは私たちの根幹だ。 だが、それと同じくらい、いや、それ以上に重要なことがある。

それは、磨き上げた技術を、あなたが倒れた後も価値として提供し続けられる「仕組み」に残すことだ。

これは、私に特別な才能があったからできたことではない。 正しい手順で、種をまき、水をやれば、誰の畑でも必ず育つ「仕組み」の話だ。

「ピコン」という音を、ただの通知音だと思わないでほしい。 あれは、未来のあなたが、今のあなたに送っている「ありがとう」のメッセージであり、あなたが職人から経営者へと進化している、確かな足音なのだ。

今日から、少しだけ意識を変えてみてほしい。 レジの「チャリン」と同じくらい、いや、それ以上に、スマホの「ピコン」という音に耳を澄ませてほしい。

そして、その音が鳴る「仕組み」を作ることに、あなたの貴重な時間と情熱を、少しだけ分けてあげてほしい。 それが、あなたと、あなたの大切な家族の未来を守る、最強の盾になるのだから。

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